
長い間ご無沙汰しております。
この修理内容もすでに1ヶ月ほど前のものですが、どうかご容赦ください笑
今回は MTD USA 535 をお預かりいたしました。
お預かりの際にはかなり小さいながらも音は出ていたのですが、点検中に完全沈黙……。
アンプのボリュームをかなり上げると、ようやく微かに音が聞こえる程度でした。
預かってから力尽きることは往々にしてありますので、その辺りもどうかお手柔らかにお願いいたします!笑
まず疑うのは、入り口か出口か電源。
つまり、ピックアップ、電源、ポット、ジャックなどを一つずつ確認していきます。
ボリュームとバランサーポットには不具合が見つかったので交換。
「これで終了かな」
……と、この時までは思っていました。
しかし、そう簡単にはいかず。
全く改善しない!!
なると、原因はBartoliniのバッファ、もしくはプリアンプ本体にかなり絞られてきます。
アクティブ回路関係の修理はいろいろ経験してきましたが、プリアンプやバッファそのものが故障するケースは、当店では今回が初めてでした。
電子回路を追いかけるには当方では時間がかかりすぎますし、そもそもブラックボックス化…。
しかも軽く調べてみるとこのベースに搭載されていたシステムが少々特殊。
MTD向けのBartolini NS3TMB-18と、古い世代のデュアルバッファが使用されています。
現在一般的に公開されているBartoliniの配線図と照らし合わせても、現物と一致しない部分がいくつもあります。






そこで今回は、Bartolini本社へ直接問い合わせることにしました。
たまに海外のお客様がいらっしゃいますが、当方の英語力なんて散々たるもの。
AIと翻訳アプリを駆使して問い合わせます笑
写真や配線状態を送り、何度もメールをやり取りしながら調査していただいた結果、この個体に搭載されていたデュアルバッファは、2013年以前に使用されていた DB18.2b であることが判明。
さらに、当時のMTD向け仕様について古い資料まで探していただくことになりました。
旧モデルでは、外付け抵抗によってゲインや出力の安定性を調整する設計になっていました。
一方、後継の DB18.3 では、それらの機能がモジュール内部へ取り込まれており、旧回路に存在した一部の外付け抵抗やフェライトは不要になっています。
現行のNS3TMB-18についても、旧型で外付けされていた一部のDCブロッキングやRFノイズ対策が内部化されています。
さらに、この個体にはBartoliniの標準配線図には見られない部品も使用されていました。
正確な意図までは断定できませんが、MTD側で何らかの音色調整や仕様変更が加えられていた可能性があります。
この辺りもブティックメーカーならでは。
製作者の思想や、その時々の仕様によって細かな変更が加えられることは往々にしてあります笑
つまり、
古い部品を外して、新しい部品を同じ場所につなげば終わり」
という修理ではありません。

Bartoliniのサポートからは、現在一般販売されている製品でも近い仕様を構成できると教えていただきました。
ただし、そちらは電源方式が異なります。
今回のお客様のご希望は、単純に「音が出ればよい」というものではなく、できる限りオリジナルサウンドと仕様を維持したいというもの。
そのため、旧回路のどの部品が当時のモジュールに必要だったものなのか、新しいモジュールではどこまで内部化されているのかを一つずつ整理しながら、配線を組み直す必要がありました。
旧回路特有の音色や動作に関係している可能性がある部品はできるだけ残し、新しいモジュール内部ですでに同じ役割を担っている部品については取り除きます。
最終的にはBartoliniから、現行の NS3TMB-18系モジュールとDB18.3 を直接取り寄せ。
通常販売されていないMTD向けの特殊な部品でしたが、今回の修理内容を確認いただいたうえでBartolini本社から補修部品として供給していただきました。
メーカーから教えていただいた設計変更の内容を踏まえつつ、なるべく元の配線の雰囲気や取り回しも崩さないよう意識して再組立しました。
そもそも、こんなマニアックな部品を入手するには、日本の輸入代理店かMTDを通さないと販売してもらえないものと半分諦めていました。
まさか直接販売していただけるうえに、ここまで素晴らしいサポートまでしていただけるとは思ってもいませんでしたね。
交換後、無事に正常動作を確認。
元々このベースが採用していた ±9Vの両電源方式 もそのまま維持しています。
お預かりした時点ですでに正常な音が出ていなかったため、こちらでは「本来の音」を直接比較することはできませんが、ただ、オーナー様には違和感なく感じていただけたようで一安心。
長いことお預かりしてしまい、申し訳ございませんでした!
今回、特に思い出深かったのはBartolini社の手厚いサポートです。
現在の製品資料だけで判断するのではなく、古い配線図や設計変更の履歴まで調べてくださいました。
さらに、その調査にはBartolini社オーナーの Clyde Clark氏 の知識も使われていたそうです。
修理完了後には、今回の案件について「これ以上複雑なケースはなかなかない」という趣旨の言葉までいただきました。
メールのやり取り、楽しかったです笑
英語が母国語でもない、日本の一修理業者からの問い合わせに対して、ここまで時間をかけて調べていただけるメーカーは本当にありがたい存在です。
過去にも、国内代理店では分からないような内容を海外メーカーへ直接問い合わせたことがありますが、まあ大体スルーされますもんね笑
もちろん、向こうも忙しいでしょうし、いちいち全てに対応できないのは当然だと思います。
だからこそ、今回のBartoliniの対応には本当に感謝しています。
素晴らしい会社ですので、この経験は後世に語り継いでいきます笑
非常に勉強になる修理でした。
昨今の物価高と円安に加え、部品代・送料・関税もなかなかの金額。
さらに今回のような調査、メーカーとのやり取り、回路の解析、再構成を含む作業でしたので、どうしても高額な修理となってしまいました。
それでも結果としてオーナー様にはご満足いただけましたし、楽器自体の価値やオリジナル性を大きく損なうことなく仕上げることができたと思います。
この度はご用命いただき、ありがとうございました!
